誰の目にも明らかのように、2000年代前半から長く続いていた「お笑いブーム」が終焉を迎えました。
それと入れ替わるように台頭してきたものが「アイドルブーム」です。
どういった経緯でそんな流れになったのかを語れるほどの洞察力を僕は持ち合わせていないので、とりあえず重要となっただろうと思えるポイントと現状をまとめてみたいと思います。
お笑いブーム
『M-1グランプリ』とは、2001年から2010年まで開催されていた、島田紳助企画・吉本興業主催の漫才のコンテストです。M-1グランプリがお笑いブームに火をつけ、大きなブームへと発展させたと言えます。
M-1グランプリで優勝すれば(優勝せずともテレビ放送される決勝まで進出し活躍すれば)人気芸人となりテレビから引っ張りだこになる、という現象が何年も続きました。
そのからスターになった例はアンタッチャブル(2004年)、ブラックマヨネーズ(2005年)、 そしてチュートリアル(2006年)などなど。優勝こそ逃しましたが、麒麟、南海キャンディーズなどが一気に知名度を上げ、人気芸人となっていきました。余談ですけど、変ホ長調は今どうしてるんでしょうね。
そこからお笑いネタを放送する番組が一気に増えてゆきます。
『爆笑オンエアバトル』(NHK)、『エンタの神様』(日本テレビ)、『笑いの金メダル』(朝日放送)、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)。 爆笑とか神様とか金メダルとか、なんか大きな名前を付けるのが鉄板だったんですかね・・・。
『エンタの神様』からは、 はなわ、波田陽区、青木さやか、オリエンタルラジオなどを輩出。
『爆笑レッドカーペット』からは、柳原可奈子、ムーディ勝山、フルーツポンチ、はんにゃなどを輩出。
それぞれ一時代を築いた印象ですね。
『あらびき団』についても書きたいけど、思った以上に長い記事になってるので急ぎます。巻きで。
各放送局もM-1グランプリを意識しまくったお笑いの大会を放送開始します。
ピン芸人で競う『R-1ぐらんぷり』 (フジテレビ・関西テレビ)
『S-1バトル』なんてものもあったけど、どうなったんだろう。ソフトバンクが月間チャンピオンには賞金1000万円、年間チャンピオンには賞金1億円を出すという、これまでの空気や文化をブチ壊した印象しか残っていません。あ、優勝して1億円ゲットした『NON STYLE』がそのお金を使って無料ライブを行い、むしろ赤字になったというエピソードがありました。NON STYLEかっこいいですね。
お笑いブームの終焉
そんなこんなで2010年代に入って状況は一変。
これまでお笑いの流行を司っていた『M-1グランプリ』が終わります。それに続くように民法のお笑い番組も立て続けに終了し、現在も残っているネタ番組はNHKの『爆笑オンエアバトル』の後継、『オンバト+』のみです。*1
新しいお笑い芸人を召喚させる場は年一回しかない『R-1ぐらんぷり』や『キングコブコント』だけです。
●終わりブーム終焉の主な原因
ブームの終わりは、だいたいこの3つが原因なのではないかと思います。
『M-1グランプリ』の終了は仕方のないことです。M-1グランプリ自身の耐久がそろそろ厳しかったので、つまらない大会をだらだら続けるよりも全然いい決断をしたと思います。
島田紳助の引退は、彼の不在が影響したというよりも、多くの芸人が在籍する「吉本興業」と「暴力団」の黒い関係に、視聴者が引いてしまった印象です。
生活保護不正受給問題は、『次長課長』の河本準一や『キングコング』の梶原雄太というちょうどテレビで活躍していた、いい歳した中堅芸人だっただけに「お笑いに冷めた」 という人や「芸人観て笑えなくなった」という人が一気に増えました。
更に言えば、周りの芸人が彼らを擁護したことが最悪だったと思います。自分達の輪の中の空気を読みまくっていた芸人が、世間の空気の読み方を読み間違えるってちょっと面白いですね。
つまり、ネタがつまらなくて笑わなくなったのではなく、お笑いとは関係のないところで引いてしまって笑えなくなったということが影響して、お笑いブームが終了したのだと考えられます。
希望のスギちゃん
2000年代後半から、お笑い芸人の消費サイクルが急激に速まり、いわゆる「一発屋」と言われるようなお笑い芸人が入れ替わり消費されてきました。
そういったお笑い過剰消費する場(番組)が消滅してから、遅れて登場したのが「スギちゃん」です。
彼の芸風は誰が見ても「一発屋」です。 言い切ります、一発屋です。
しかし、スギちゃんに替わって登場する新しい芸人は生まれそうにありません。
新しい芸人が排出されにくい環境ゆえに、一発屋体質のスギちゃんが一発で消費されずに大切に扱われるのであれば、それはまだ光を見ぬお笑い芸人にとっては(お笑いブームが終わったとはいえ)ある意味「希望」なのではないかと僕は思っていました。
思っていましたよ、ええ。
そしてアイドルブームへ
大阪難波には若手お笑い芸人がライブをする「baseよしもと」がありました。
それが2011年から「NMB48劇場」になりました。
それが結構象徴的だと思います。
⇒
嵐 - ゲスくない笑い
テレビを観ていて象徴的だったのは、『ひみつの嵐ちゃん!』です。
ジャニーズの『嵐』です。
ひみつの嵐ちゃん!を観ていると、嵐のトーク上手過ぎてお笑い芸人が要らない雰囲気。芸人ブームからアイドルブームに完全に移行したのを象徴してるみたい。 #TBS
— 潮見惣右介 (@shiomiLP) September 13, 2012
まぁ、このツイートのまんまです。
数年前に嵐が『めちゃイケ』にゲストとして出演した際、「櫻井や松本、二宮、相葉は多方面でとても活躍しているのに・・・大野は何もしてないね(笑)」という流れで笑いをとっていました。それはやはりめちゃイケ(芸人的)の文脈による笑いであって、嵐がホストの番組はそういう誰かを貶める事はしません。
貶めることがあっても、その相手は常に入れ替わります。誰か一人ではありません。嵐の中で一番スターである松本潤でさえ、小学生(はるかぜちゃん)に洋服のセンスを疑われたり、Perfumeにイジられます。松本潤のその柔軟性は、木村拓哉にはなかった事だと思います。
もちろん嵐はアイドルなので芸人ほど面白くはありませんし、芸人的な文化を取り入れたコミュニケーションが多いですが、特定の誰かをイジメるタイプの流れがないので、観ていて「楽しい」です。
「面白い」お笑い芸人に対して、アイドルは「楽しい」が重要なワードだと僕は思っています。
AKB48 - 楽しんでますか
綺麗や可愛いではなく、「楽しい」に重点を置いていると思うのがAKB48です。
選抜総選挙は美少女コンテストではないので、可愛い子が上位ってわけではないんですよね。
そしてスポーツと近いところがあって、メンバー人選や組み合わせ、成績を競い、同性集団が一つの目的に向かって活動するというのが面白かったりします。
U-20のサッカー女子日本代表の選手をアイドル扱いするテレビ番組に僕は嫌気がさしますが、スポーツ選手をアイドルのように消費する「なでしこ」と、アイドルをスポーツ競技のように消費する「AKB」は、とても似ているなぁと感じます。
お笑い芸人の主戦場だったバラエティの雛壇はAKB48だけで出来てしまうし、メンバーがバラエティ番組に出た時に「爪痕を残せたか」という評価基準は芸人文化の名残りです。
ということはやはり、芸人的スキルをコピーできたアイドルが今一番強いのです。その傾向はお笑いブームの後だからこそ生れたものです。その傾向があったからこそ、NEWSやKAT-TUNではなく嵐、AKB48なら指原莉乃が台頭しているのだと思います。
アイドルの増殖に至る基盤
アイドルが増殖し、力を付けているのは、ソーシャルメディアの浸透が関係しているのではないでしょうか。
「アイドル」と言っても、テレビで活躍するAKB48やももいろクローバーだけでなく、全国にご当地アイドルや地下アイドルと呼ばれる女の子が大量に存在します(名乗ればアイドルになれます。それはとても素敵なことです)。
アイドルが増殖する理由は、ソーシャルメディアを個人メディアとして活用できる環境であるからだと思います。 活動の告知だけでなく、ライブや自室で踊る映像を生放送するアイドルもたくさんいます。簡単にアイドルになれる、アイドル活動が手軽にできるわけです。
思えば、M-1グランプリは素人が漫才をする目的と場を提供しました。
お笑いをしたい!と思っても、次の瞬間取る行動は「お笑い学校に入る」しかありませんでした。素人が立つステージも機会もありませんからね。
アイドルになりたい!と思っても、オーディションやコンテストに参加するしかありませんでした。
それが、漫才をすることでお笑い芸人になれる、アイドル活動をすることでアイドルになれる環境になった。
それが「お笑いブームを生む下地」になったし「アイドルブームを生み出す下地」に今なっていて、前者はM-1グランプリが、後者はソーシャルメディアがその場を提供したのだと思います。
これから先
お笑い芸人の「黒さ」故にお笑いブームは去りました。アイドルにも黒い側面は存在します。もしかしたら、お笑いの比ではないくらいの黒さかもしれません。
そういう黒さや大人の事情があることを織り込み済みでアイドルを楽しむ人間がある程度いないと、これから先はキツいかも。
追伸
アイドルになりたいと思えばニコ生を放送してTwitterアカウント開設すればいい。お笑い芸人になりたければ漫才やコントをYoutubeにアップすればいい。あらゆる表現活動を手軽に楽しめる環境を提供しているインターネット。
僕のこのブログも、お手軽に社会学をはじめよう、っていうコンセプトだったりするのです(どこか社会学なんだよって感じですが)。
いいじゃん、自称で。
楽しいですよ。
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