無印都市の子ども

まなざしのゆくえ

冬の歩調

ーー確かにお前の言う通り、冬はたぷたぷした猫と暮らしたくなるね。 * 夜中の静かな高速道路を走っている。子どもの頃は後部座席のまんなかに座り、ブレーキランプの赤が連なる車列を眺めながら「いま誰が先頭を走っているんだ?」といつまでも考えていた…

秋の歩調

秋の気候が好きだ。気分だけでなく体調もよくなる。自軍の色のインクのなかを泳ぐスプラトゥーンのような軽やかさで、駅の階段をタタンタタンと小気味よく降りている。夏の倦怠感はきっと、からだに敵軍のインクがまとわりついていたんだろう。わかばシュー…

夏の歩調

次の営業先に向かう途中、西中島南方のファミリーマートに寄ると、店の奥のでかい冷蔵庫がほぼほぼからっぽだった。冷蔵庫の扉には手書きの貼り紙が貼ってあり、昨夜の淀川花火大会の影響であらゆる種類の飲料水が品切れていると書いてあった。今晩には再入…

空気階段のコントについて - 常人の狂気性/狂人の常識性

『キングオブコント2021』は空気階段の優勝で幕を閉じた。 ぼくはこれまで何組かのお笑い芸人をすきになってきたが、空気階段に対する愛情はそれらの比ではなかったので、推しが賞レースで勝負するのはこんなにおそろしいことなのか……とここ一ヶ月ほどずっと…

空気階段の冗談と本当の声 - 『キングオブコント2020』

キングオブコントの審査員の採点は“控えめに言って”アレであるし(ぼくは「控えめに言って」のあとに本当に控えめに言うタイプです)、ヒコさんのブログ『青春ゾンビ』の空気階段批評を読めば皆さんもれなく彼らのことがもっと好きになるはずなので、ここで…

日向坂46を飲料水に例えてみた

大所帯グループのいいところは、掘れば掘るほどメンバーそれぞれの個性や関係性が浮かび上がってくるところだと思います。 今回は、いま最もハッピーなオーラを世に振り撒くアイドルグループ「日向坂46」を取り上げ、メンバーそれぞれを飲料水に例えてみまし…

『ドラえもん』のび太たちがガスを吸引して“しあわせな気持ち”になる話について

『ドラえもん』の第25巻には「ヘソリンガスでしあわせに」というエピソードが収録されている。概要はこんな感じである。(※無論ネタバレなので、それが気になる人はコミックスを読んでください) ある日、いくつもの災難を同時に被ったのび太は、家に帰るな…

かが屋のコントとその文学性について

お笑い第七世代という言葉で一括りにされるなかで、一際大きな才能を感じる“かが屋”のコント。 彼らのネタは、他のコント師たちのネタと比べて一体どこがどう違うのか。そこんところを少しだけ書きたい。 * 通常、コントというものは「物語の導入」から始ま…

書店員を辞めました(退職エントリを書くつもりだった)

書店員を辞めました 退職エントリを書くことに小さな憧れがあったので、退職が決まったときから「どんなこと書こうかなぁ」とぼんやりと考えていたのだけど、でもよく考えてみるとネット上から職場に対して言いたいことなんて何ひとつなかった。 しかし、書…

【お知らせ】本を出すことになりました

こんばんは、潮見惣右介です。 いつもブログを読んでくださってありがとうございます。あなたのブックマークやスター、記事についてSNSで言及してくださることが、本当に励みになります。ありがとうございます。 お知らせです。 2018年12月14日、㈱シネボー…

BUMP OF CHICKEN『話がしたいよ』の“ガム”が意味するところ

BUMP OF CHICKENの新曲『話がしたいよ』がとにかく最高だという話は、Twitterで散々しているのでもういいだろう。 昔はBUMP OF CHICKENに似合わないタイアップがつくことに憤ったり、それってどうなんだよと言わざるを得ない楽曲に呆れたりしていたが、もう…

死ぬほど価値のあるものはもっと別にある -大阪モード学園のCMについて-

8月31日。少年少女が学校に行きたくなさ過ぎて死んでしまうのは、裏を返せば学校にそれだけの価値があると思い込んでしまっているからで、よくよく考えればさすがに死ぬほどの価値はない。 とはいえ各々抱えている状況は異なるだろうし、一概には言えないの…

欅坂46を飲料水にたとえてみた

自分にとってアイドルってなんだろうか?と考えたときに、清涼飲料水ではないかという答えにたどり着きました。潤いであり、甘味であり、癒しだったりします。 というわけで、今回は欅坂46のメンバー21人をそれぞれ清涼飲料水に例えてみました。 販売元や売…

それでも『ミライの未来』を観にいくべきたった1つの理由

細田守監督作品『未来のミライ』を観てきた。映画の内容について言いたいことはたくさんあるけど、まずは映画の外側を巡る言葉について、前置きしておきたいと思う。映画内容についてはまた別の記事に書きたい。 上映前の予告にエヴァンゲリオンの特報が流れ…

『劇場版ポケモン みんなの物語』 - ポケモン映画の新しい方向性?

劇場版ポケットモンスター みんなの物語 前作『きみにきめた!』に続き、今年もポケモン映画を観てきました。 BuzzFeed Japanさんの記事に感想コメントを出したのですが、他にもいろいろ言いたいことがあるので、少しだけ感想を書きます。普通にネタバレして…

第159回芥川賞候補作の感想と予想

第159回の芥川賞候補作を読みました。 高橋弘希「送り火」(文學界5月号) 町屋良平「しき」(文藝夏号) 古谷田奈月「風下の朱」(早稲田文学初夏号) 松尾スズキ「もう「はい」としか言えない」(文學界3月号) 北条裕子「美しい顔」(群像6月号) 全体的…

STU48の名曲『暗闇』はもっと発見されるべき

STU48のデビューシングル『暗闇』 STU48が『暗闇』でデビューしたのは2018年1月31日。実はその時点でぼくはこの記事を書き上げていたのだけど、あまり納得いかずにお蔵入りにしていた。どうせなにか書かなくてもこの曲は売れるだろうなんて思っていた。 しか…

W杯は4年に一度やってこない - 大迫勇也と私

日本代表に対する認識 日本代表はサッカー後進国であり、欧州や南米の国々から学ぶ立場にある。だからこそ日本代表の歴代監督にはオフト、トルシエ、ジーコ、オシム、ザッケローニなど、外国人指導者が就任してきた。欧州の戦術や育成方法などを輸入し、その…

映画『四月の永い夢』と朝倉あきという女優について

映画『四月の永い夢』を観てきた。大阪では九条にある映画館「シネ・ヌーヴォ」でしか上映されておらず、平日昼間、700席ほどのこじんまりとしたスクリーンで、10人ほどの客の中に交じって鑑賞してきた。 この映画が世間でどのように評価されているかは知ら…

春の空気に虹をかける夜に -小沢健二@武道館

晩春。武道館である。山田守氏の建築を見たいと思いながらも、実際にそこへ出向く機会がこれまでなかったので、いいタイミングだなと思って5月3日のチケットをポチった。小沢健二のタイミングで初・武道館。 これはライブを終えたあとに感じたことだけど、そ…

チャットモンチーの解散 /『コスモタウン』から見る高橋久美子の文学性

チャットモンチーが解散する。 ドラム・高橋久美子の作詞が好きだったぼくにとっては、「高橋久美子の脱退」の時点ですでにひとつの終止であったのだけど、それでもやはり「チャットモンチーそのものが消滅する」というニュースは今の自分にも衝撃だった。Ki…

キャラメルウォールナッツをふたつ注文できない - 文月悠光『臆病な詩人、街へ出る。』

このあいだ、ちょっとした用事のあとに友人とクリスピークリームドーナツに寄った。ぼくはキャラメルウォールナッツが好きで、ほんとはそれをふたつ食べたいのだけど、同じものをふたつ注文するのはすこし気恥ずかしい。複数個のドーナツを注文するのなら、…

【お知らせ】はてなブログさんからヘッドホンやボトルをいただきましたよ

こんばんは。Mac bookにステッカーを貼るか貼らないかを悩み続けてもう半年<優柔不断ボーイ>こと潮見惣右介です。からだに刺青とか入れる人、すごいなって思います。 さて、ご報告です。先月書いた『okja/オクジャ』の感想記事が、はてなブログとNetflixが…

みんな何かしら“入らない” - 『夫のちんぽが入らない』

今更ながら、2017年のベストセラー『夫のちんぽが入らない』を読んだ。 去年自分がいろいろと考えていたことと、ほぼ同質の悩みであり、自分とかなり近い問題意識を持った作家であったと知って、「もっと早く読めばよかったな」と思ったのだが、まぁ別に今か…

坂元裕二『anone』第2話 - 共犯者になった夜

紙切れ カレー屋の焼うどん。林田亜乃音(田中裕子)が焼きはらう札束。ティッシュ配りの寿さんの手から差し出される肉まん。 「世界の裏側を垣間見えたんですよ」 世界には裏メニューがあって、馬鹿正直に並んでいる人には見えない裏の世界のルールがある。…

坂元裕二『anone』第1話 - 青色が意味するもの

坂元裕二が脚本を手掛けるドラマ『anone』が放送開始した。 『カルテット』に熱狂し『初恋と不倫』に心を掴まれた自分にとっては、こんなにも早く新作が届けられたことに感激するばかり。そして、そんな期待を裏切らない頑丈な第1話であったことに、ただただ…

このまま欅坂46を推していていいのか? - 紅白2017

年末の紅白歌合戦、欅坂46のパフォーマンスについて、年が明けて10日が過ぎてようやくある程度は整理がついてきた。タイトルからも分かる通り、どちらかと言うとネガティブな内容の記事になる。記事の前半は欅坂46のメンバーの消耗について。後半はぼくの仮…

竹内涼真に「一度逃げたら逃げ続ける人生になっちゃいますよ」なんて言わせるなよ - ソフトバンクのCMについて

好きなことだけに言及し、楽しいことだけを享受して生活するほうが、精神衛生的によい。それはわかっている。 だけど、最近はあまりにもこのCMのことだけを考えてしまうので、ここで一度発散させていただきたい。 もともと「逃げる」という言葉には、ネガテ…

『オクジャ/okja』 - 世界がそれを愛と呼ばなくても

自分だけの価値観から「物語」はうまれる 映画を観ていて、作り手が意図したものとは異なるメッセージを勝手に受け取ってしまうことが稀にある。恋愛映画なのに職業選択の重要性が心に残ったり、反戦映画なのにサクマドロップの広告映像として受け取ってしま…

2017年の音楽ベスト10

なんやかんやで恒例になった「年間ベスト10曲」。今年はポップなアーティストが並びました。電車の中とか、トイレの中とか、ふわっとした時間に読んでくれたら幸いです。 * * * 1.『MODERN TIMES』- PUNPEE MODERN TIMES アーティスト: PUNPEE 出版社/メ…