無印都市の子ども

まなざしのゆくえ

“純文学”化する邦楽ロックバンド

 

 ドキッ!アイドルだらけのヒットチャート

2012年のCD年間売上ランキングが発表になりました。 (http://www.oricon.co.jp/music/special/2012/musicrank1220/index01.html

もう「見たよ」って人は多いと思いますが、結果は1位から30位までのほとんどをアイドルが締めており、それ以外だと23位Mr.Childrenと24位EXILEくらいです。

 

そういうアイドルブームに対してロックバンドRIZEがこんなツイートをして話題になりました。

こういう意見を持っているのはRIZEだけではなく、他のロックバンドや音楽ファンも同意するところはあると思います。

つまり、「今売れてるアイドル達は幼稚で、俺たちこそが純粋な音楽を奏でている」という考え方ですね。

 

 

 文芸界における純文学の立ち位置

そのアイドルやJ-POPに対するロックバンドの態度って、文芸界における“純文学”の態度にそっくりなんです。

昔々、芸術性よりも娯楽性を重視する「大衆文学」(東野圭吾とか伊坂幸太郎とか直木賞取るタイプの作品)が台頭してきた頃に、「俺たちはあんな軽々しい小説とは違う!俺たちこそが純粋な文学だ!」という考えから生まれた言葉/定義が「純文学」です。

さらに、純文学と大衆文学の両方から「あんな軽々しい小説とは違う」と差別化されたのが「ライトノベル」です。

そうやって新しいものを拒絶していった結果、今どういう構図になっているかと言うと、“ライトノベル>大衆文学>純文学”ですよね。

※ちなみに、雑誌『ダ・ヴィンチ』1月号に「Book of the Year 2012」が載っていたのですが、30位以内に入った純文学作品は、13位の綿矢りさ、24位の田中慎弥(今年の芥川賞受賞作)だけでした。

 

これを今の邦楽シーンに当てはめると、

ライトノベルがアイドル、アニソン、V系。

大衆文学がそのまま大衆音楽(=J-POP)。

そして純文学がロックバンドだと思うのです。

 

 

 “純文学”化すると

純文学作品が一番売れるタイミングは芥川賞を受賞した時で、そうやって売れたものには「純文学では異例の10万部」なんて言われ方をします。

このまま行くとロックバンドは音楽シーンの片隅に追いやられて、たまにヒットが生まれると、純文学と同じように「ロックバンドでは異例の10万枚」なんて言われるようになってしまうのではないでしょうか。

「純ロック」とか言い出さないか心配です。

 

 

 おまけ~ロックバンドの生存戦略~

でもそんな現状に危機感を覚えているロックバンドもいます。

たとえばサカナクションは「ロックバンドはTVに出ない事がカッコ良いという風潮が生まれてから音楽シーンでロックバンドの存在感が薄くなったので、音楽シーンの真ん中にロックバンドを戻すためにも僕らはTVに出るし、ドラマ主題歌だって歌う」という考えで、一回聴いて印象に残る曲(『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』や『夜の踊り子』)を選んでMステに出たり、テレビドラマの主題歌を歌ったりしています(『僕の花』)。

勝手な想像ですけど、元チャットモンチーの高橋久美子さんもそんな音楽を意識していたんじゃないかなぁなんて思ったりしますし、そして今、誰よりも大衆のど真ん中を歩いているのはいきものがかりです。

(いきものがかりに関してはこちらの記事を読んでください→ http://shiomilp.hateblo.jp/entry/2012/11/26/213247

 ※まぁいきものがかりはロックバンドではないけれど。

 

純文学とロックバンドに関して悲観的に書いてきましたが、僕自身は文学の中でも純文学が好きですし、一番聴く音楽も邦楽ロックバンドです。

純文学は衰退したゆえに、文学的な才能を持つ人がライトノベルやマンガに流れていると思います(海羽野チカさんや市川春子さんは、時代が時代なら純文学作家として活躍されていただろうなぁと、彼女達の漫画を読んで強く感じます)。

 

サカナクションやいきものがかりを筆頭に、ロックバンドが音楽チャートを書き換える事を期待していますし、ロックバンドが純文学化しない事を祈っています。

<了>

 

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