潮見さんが2013年に読んだ小説のベスト10です。
楽しいよねこういうの。ひとのを見るのも好きです。
1:『星への旅』/吉村昭
年間ベストがまさかの短篇集。しかも1974年の作品。
どれか一つの短編ではなく、短篇集として完璧だったなぁと。僕は吉村昭という作家をそれまで知らなくて(ごめんなさい)、でも知らないからこそフラットに読める。フラットに出会える。
一つ目の短編「鉄橋」の冒頭から風景描写が素晴らしく、言葉の選択が的確。全編通して「死」がテーマとなっていて、常に気色悪い冷気が底を流れているような雰囲気。6篇のうち3篇が芥川賞候補、1篇が太宰治賞。
吉村昭さんの作品をもっと読みたいと思っているのですが時代小説は苦手なので、誰か彼の純文学系の作品を教えてください。
2:『古都』/ 川端康成
なんか渋いのが続きますね……。
この本はオフ会でおすすめされていた小説で、『星への旅』と同様、風景描写が美しいのです。
ところで、「本が好き!」という言葉には3つの意味があると僕は考えていて、「物語が好き」という意味と「文章が好き」という意味と「本そのものが好き」という意味。
僕自身が「本が好き」と口にする場合は、3つすべての意味を帯びているつもりやけど、2つ目の「文章が好き」という意味合いが大きいのかもしれないなぁと『古都』や『星への旅』を読んで思いました。美しい文章に出会うと「おぉっやべぇ、やすなりちゃんやべぇ」ってなる。
『古都』は特に京都特有の美しさが映像的に立ち昇ってくる。千重子と苗子がはじめて言葉をかわす場面、そして最後の「粉雪の朝」の美しいこと美しいこと……。
川端康成の描く少女はみな背筋がぴんとしていて凛々しく、ほんと可愛らしい。
萌える。
3:『know』/ 野崎まど
↓こちらはKindle版
『星への旅』『古都』と来て一転、SFです。
Google的思想を元に構築されている2081年の世界は、僕たちがそのGoogle社に対して抱く印象と同じく「怖いけどおもしろい世界」。怖いと感じるのは善悪の判断が保留されているからで、しかし電子葉の是非は電子葉普及後の価値観でしか判断を下せない。よって僕たちは前に進むしかなく、知り続けるしかない。
野崎まどの軽やかな文章とプロット力は広く人を惹きつけるだろうし、未来的な想像力や思想は深く人を惹きつける。
恐らく、というかどう考えても、10年代で最も影響力持つ作家の一人であることは間違いないです。
もっともっとわくわくさせておくれよ。
4:『兎の眼』/ 灰谷健次郎
↓こちらはKindle版。
【スタジオジブリ人気アニメータープレミアムカバー】兎の眼 (角川文庫)
- 作者: 灰谷健次郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2013/06/25
- メディア: Kindle版
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アマゾンでの装丁表示がどうなってるか分かんないですが、ジブリ版の装丁がすさまじく素敵でひとめぼれしました。
灰谷健次郎が17年間の教員経験で培ってきた教育の哲学を物語に落としこんだ作品という印象。
いろんな個性豊かな登場人物がいる中で小谷先生と鉄三くんだけを表紙に起用し、しかもその2人が共に同じものを眺めている瞬間を描くというこのセンス。近藤勝也すごい。
5:『サリンジャー選集(2) 若者たち〈短編集1〉』/ サリンジャー
サリンジャーひゃっほい!
サリンジャーの作品は、一般的に流通しているもののほかに、サリンジャー本人が「もう出版せんといて」と告げた短編があるのです。それは本国アメリカではもうほとんど流通していません。なのに日本では読める!!!それがこれ!それがこれ!!!
とは言え、すでに絶版で、Amazonで古本を探してもいい値段したりする。
ところがどっこい四天王寺の古本市で買えたのですよ。(みんな古本市行こう!)
ホールデン・コールフィードの名前が出たり、本人が登場する短編がいくつか。
「若者たち」や「二人で愛し合うならば」がとても若々しくみずみずしくて大好き。
サリンジャー本人の意志により封印された短編小説だと知った上で、それでも僕はこの本を読んでしまった。今後出版されていくであろう未発表作品も、たぶん僕は買っちゃうと思う。
ごめんねサリンジャー。
6:『かわいそうだね?』/ 綿矢りさ
一応今年読んだ本なんだけど、気分的には去年の本なんですよね。
文庫化なって読んだ感じで今年のランキングに加えると、まぁ6位かなぁと。
最初に読んだ時の衝撃は去年の1位『ひらいて』と双璧を成す。
相変わらず綿矢りさはいい。でも『勝手にふるえてる』から『かわいそうだね?』『ひらいて』あたりまでがピークかもしれない。『大地ゲーム』はむしろ嫌いかもしれない。
7:『TRIP TRAP』/ 金原ひとみ
装丁のオシャレ度ランキングならダントツで1位の『TRIP TRAP』。内容も素晴らしく7位。もっと上位でも良かったかなぁ。
6本の短編集だけど、「フリウリ」の為だけに他の5本があるような気もする(個人的に好きなのは「女の過程」と「夏旅」)。最後の最後でtripの意味がすり替わってしまうけれどほとんどは旅の話で、恋人と一緒に別世界と呼べるような地へ行っても、最後には必ず日常へ帰る描写があって、ほら、あれ、「家に着くまでが遠足です」的な。
物語が進むにつれて、主人公に名前がなくなって「彼」と「私」になるのが面白い(彼と私以外の人物にはしっかり名前がついてるのに)。特に彼は匿名性が高い。子どもは、赤ちゃんの時は名前はなくて、会話できるまで成長すると「ユキちゃん」になる。
おおかみこどもの雨と雪を観た時も思ったけど、僕が母親の視点で読んで考えるのは、やはりちょっと難しい。相変わらず僕は子どもで、自分の母親もこういう苦労を乗り越えてきたんだろうなぁと想像して申し訳なくなるばかり。
8:『世界地図の下書き』/ 朝井リョウ
「なぜ自分よりもイケメンで、高学歴で、いい会社に勤めていて、溢れるほどの才能を持ち合わせている同世代の男子に印税払わなきゃいけないんだ!」という葛藤を乗り越えて『世界地図の下書き』を買った。すごいわ、朝井リョウすごい。もう泣きそう。 pic.twitter.com/Xq0Ll4lR1K
— 潮見惣右介 (@shiomiLP) 2013, 7月 12
でもなぁ、やっぱり結論は納得いかないわけですよ!いや、ジェラシーとかではなく!笑
朝井リョウ著『世界地図の下書き』感想 -逃げちゃえばいいし、部活だって辞めちゃえばいいと思う- - 無印都市の子ども @shiomiLP
9:『スタッキング可能』/ 松田青子
『スタッキング可能』は、カッチリと積み重ねられるくらい同じような形の人達による同じような形のコミュニティが積み重ねてあって、『ちょっwウチらキャラ濃過ぎwww』とか言ってる集団に属する人間のキャラが濃かったことなんて一度もないよねっていう。
他人が一方的かつ乱暴に《私》をアイコン化してくるから、それに抗ってみたり、妬んでみたり。
10:『スーパーカンヌ』/ J.G.バラード
2013年はバラード年ということで、『スーパーカンヌ』『千年紀の民』『沈んだ世界』『結晶世界』『時間都市』を読んだのですが、僕は後期のバラードが好きですね。でも『スーパー・カンヌ』や『千年紀の民』は、去年読んだ『コカイン・ナイト』に似すぎていてインパクトは弱かった。
バラードの遺作はまだ翻訳されておらず、今後出版される予定だそうです。なんと舞台は郊外都市のショッピングモールで、テロが起こるらしいです。やばい今から超楽しみ。『コカイン・ナイト』を超える作品であってほしいなぁ。
終わりに
僕が今年読んだ本は94冊(漫画は除く)。
その中でベスト10を選んだわけですが、ランキングを付けてみて、上位の4つがやっぱり頭一つ抜けてる感じでした。その中で新しい作家は野崎まどのみ。彼はやばいですよホントに。
去年2012年に書いたものもあるので、良かったら読んでくだはい。
◆10 Favorite Novels of 2012 - 無印都市の子ども @shiomiLP
読書記録をしておくと、年間ベストとか書きやすいですよん。
ブクログと読書メーターを比べてみた - 無印都市の子ども @shiomiLP
<了>