神の子たちは谷底で躍る
ハロウィンの夜に渋谷に行ってきた。
日本のハロウィンが独特なのは、ハロウィンという文化が本来持つ歴史や風習みたいなものの文脈が完全にキャンセルされているところ。「trick or treat」という言葉は一度も耳にしないほど完全な“死語”になっている。
その文化がもつ歴史や風習という“奥行き”を丸ごと取り除き、フラットでポップなものにしてしまう。
その<深みの無さ>が軽率な日本ハロウィンに対する批評として主にインターネットから聞こえてくる。リア充やDQNたちがただ騒ぎたいだけのコスプレ大会。
まぁ正直言うとその通りだと思うんだけど、しかしそれでも日本ハロウィンはそれだけではないような気がして、つまり「日本代表がW杯で勝利したから交差点でハイタッチ現象」とはわけが違うと思った。
ハロウィンのキャラクターだけではなくスーパーマリオやカオナシ、中世ヨーロッパ風ドレス、陰陽師、ラグビー日本代表の五郎丸、TENGA、風俗嬢のようなナースや女警官が、一つの街の中で区分けされることなく混雑している風景は本当にカオス。
この“八百万”感、今敏監督のアニメ映画作品『パプリカ』の中で、夢の世界が境界を破って侵入してくるパレードのシーンを思い出した。
社会に押し込まれていたエネルギーが噴出して都市を犯していく光景は、単純にSFチックでおもしろくないですか。
ここ数年で日本の大都市でハロウィンが流行、定着した理由はいくつかある。
悪い顔した大人たちの企みと、2008年が行われているらしい東京ディズニーランドのハロウィン企画、FacebookのInstagram買収によるその後の発信力の向上など、何か一つのムーブメントが一つの理由ではなく、いくつかの要因が偶然重なり合った渦の中で産まれたと認識するほうが正しいように思える。
悪い顔した大人たちはずっとこの時を待っていた。
東京ディズニーランドの後追いをする形で大阪USJでもハロウィンナイト企画が実施され定番化、渋谷を追って心斎橋でも都市がハロウィン化している。他の地方の方は意外に思うかもしれないけれど大阪はこういうお祭り事に関しては反応が鈍い。ハロウィンを東京のモノとして認識して醒めた眼になることもあるのだけど、東京と比べてそれほどタイムラグなく流行したのはやはりUSJの存在が大きいのだろう。
Instagramはリア充度が高い被写体を必要とするメディアだ。カフェやパンケーキ、海など、被写体としてオシャレなものが陳腐化していく中でハロウィンは打ってつけだったように思える。十人中十人が私は違うと否定するだろうけど、Instagramに写真をアップする為にどこかへ行ったりハロウィン仮装をしている節はあると思っているし、悪い顔した大人たちはもっとそういう自意識を利用してほしい。オシャレ商品や観光地は、「どこで、あるいはどのように写真を撮るんですよ」というポイントを明確にしたほうがいい。『Instagramに写真をあげて感想を書こう、100名様に○○をプレゼント!』よりも断然意味があるし好感度を損なわない。
ハロウィン仮装にしても、反原発デモにしても、その是非はともかくとして、つい最近まで如何にも日本人が不得意とされていた言動が一気にそこそこの規模の人数を動員できているのはとてもおもしろい。
けれどデモもハロウィンも10年後にどうなっているかは分からない。
クリスマスは10年後もやってくるだろう。経済や性欲に振り回されながらも、一年の最後に鎮座する大きなイベントとして存在するだろう。ハロウィンも同じようになっている可能性もなくはないが、今の25歳は10年後は35歳。仮装しているだろうか。してないよねって書こうとしたけど、案外してるかもしれない。
10 月31日の渋谷はいつか大きなテロが発生してもおかしくない。テロでなくとも、何かしらの事故で死者が出たら。もし本当に起きてしまえば、歩行者天国のように全国的に自粛されるだろう。
デモもどうなるか分からない。怒りの矛先はいくらでもあるだろうけど、多くの人がいつまでも鎮火せずに熱量を保つ怒りは数多くはない。新聞の片隅の小さな記事で読んだがSEALDsは解散するらしい。
10年後には何もかもが懐かしい。
今がそういう時代なだけなのかもしれない。
今は膨らみ続ける一方のエネルギーがどこかで破裂するのだとしても、顔の見えない誰かに穴を空けられて静かに萎んでいくのだとしても、肯定否定は保留してそれでも膨らんでいく。
そういう時代に生きていることを拒絶するか祝福するかの、ただそれだけの話。
期待する人の期待通り、渋谷で躍っている奴はみんなアホだった。
<了>
<追記>
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