新海誠監督作品の特徴の一つとして<細やかで美しい風景描写>があります。定評のある<自然風景>に劣らず<都市風景>や<日常風景>の描写にも細部まで情報が行き届いており、何気なく描かれた本棚に収められている本や登場人物が手に持つ本のタイトルは、本好きの人達としては見逃せないポイントです。
『その登場人物がどのような本を持っているか?』ということを、物語を深く読み込むための手掛かりとして描写するアニメ作家は少なくなく、その代表格が新海誠監督と細田守監督だと僕は思っています。
今回は新海誠監督の代表作『秒速5センチメートル』の作中にチラっと登場する本を解析してみました。時系列順に並んでいます。
※物語が1994年から始まるため、今では絶版状態で入手不可能な書籍や雑誌が多数ありました。そのため、作中では単行本であるものを、比較的手に入りやすい文庫化されたもので紹介し、雑誌は2016年5月時点での最新号を紹介しています。
貴樹自宅
重なった三冊の一番上は『ダックスフントのワープ』の単行本。
一番下は科学雑誌『Newton』だと思いますが、何年の10月号なのか突き止めることができませんでした。
書店
作中の『コンパス時刻表』は1995年2月号。
『種子島の鉄砲とザビエル』は単行本です。
種子島の鉄砲とザビエル―日本史を塗り変えた“二つの衝撃” (PHP文庫)
- 作者: 石原結実
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2005/09
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英語力テスト1000―楽しみながら語学センスがらくらくアップ! (PHP文庫)
- 作者: 小池直己,佐藤誠司
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2005/09
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図書室の貸し出しカード
『ナルニア国ものがたり』や『ゲド戦記』などが並びます。
2人とも海外作家の児童向けファンタジーが好きなんですね。
カスピアン王子のつのぶえ―ナルニア国ものがたり〈2〉 (岩波少年文庫)
- 作者: C.S.ルイス,ポーリン・ベインズ,C.S. Lewis,瀬田貞二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/06/16
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- 作者: アーシュラ・K.ル=グウィン,ルース・ロビンス,Ursula K. Le Guin,清水真砂子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/01/16
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貴樹自宅 - 明里と電話
作中のジャンプはおそらくこちら。
大人明里 - 電車内
本文を読めば夏目漱石『こころ』の最終ページであることが分かります。古典名作は様々な出版社から出ているのですが、次のページには「新潮社」という文字がありました。
大人貴樹 - 電車内
小学生の頃は同じ傾向の本を読んでいた2人ですが、転校による離別以降でしょうか、大人になった2人は読む本の趣味がズレています。明里は正統派の純文学を歩む一方で、貴樹の読書遍歴には傾向が見えず、ふらふらしています。
大人貴樹 - 部屋
Visual C++プログラマのためのCOM入門―はじめるWindowsシステムプログラミング (DeV selection)
- 作者: 豊田孝
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 1999/06
- メディア: 単行本
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貴樹の仕事の本ですね。他にもタイトル解析不可能なプログラミング本らしきものがいくつか部屋に散らばっていました。
画面右下に積んである山の一番上は単行本の『夜間飛行』。大人貴樹が持っている本の中でこの一冊だけは明里も読んでいそうです。
画面左下に『日本の野鳥』という図鑑があるのですが、同タイトルの書籍が多過ぎて割り出すことができませんでした。
「飛行」を連想させる二冊に加えて、誰もいない東京の街を撮影した写真集。仕事を辞める直前の貴樹の心理状態が垣間見えそうです。
女子高生明里 - プラットホーム
カポーティ読んでるJKとか最高じゃないですか。きっと『ティファニーで朝食を』はもう読んだんでしょうね。『冷血』は好みではなかったのかもしれない。
大人明里 - バス停
おそらく新海誠監督自身が村上春樹の作品が好きなんだと思います。
村上春樹の短編作品の中で最も不気味な作品である「納屋を焼く」。セリフや物がメタファーだらけで、そりゃ明里もこんな顔するわって感じの小説です。
* * *
以上です。
『秒速5センチメール』は3つのエピソードに分かれているのですが、なんと第二話「コスモナウト」には一冊も本が出てきませんでした。
第一話と第三話の舞台が東京であるのに対して、第二話は種子島、つまり“モノが少ない田舎” が舞台。そのことを強調するため、あえて本を描かなかったのかなぁなんて思いました。
次回は新海誠監督のもう一つの代表作『言の葉の庭』の本をまとめてみます。
<了>