section:1
星の数ほどあるはてなブログの中でも、特にすごいなと尊敬しているおふたりのブロガーが、PUNPEEの1stアルバムについての記事を書いた。
その内容は素晴らしく、読み終えたときに僕は「あっ、もう書くこと何もないじゃん…」「自分が書く必要ないじゃん…」とも思ったのだが、その発想(別に自分じゃなくてもいいじゃんという考え)が、このアルバムのコンセプトと通じるところがあるなぁと気づいたので、その、つまり、まぁ、こんなグダグダと言い訳をして、「自分でなくていいなら自分であってもいいよね」という発想の転換を行ないながら今、文章を書いているわけだ。
別に俺なんかいなくてもね KOHH君,tofubeats,弟とかがいる!!! そんじゃ二度寝
『Lovely man』 - PUNPEE
ヒップホップに関しては右も左もまったく分からないので、知ったかぶらずに、ミーハーでにわかな一般ピープルのスタンスで書いていきたい。
比べるための物差しを持たない僕は、他ジャンルの音楽を引き合いに出して比べることしかできないわけだけど、PUNPEEのアルバムは間違いなく2017年No,1であるし、トラック単位でも他のアーティストの楽曲を圧倒してしまっている。
PUNPEEはすごい。これはヒップホップ界隈に身を置かない自分でも分かる。一般人にも伝わる。だからこそPUNPEEのクリエイションは、フジへフジへ、加山へ宇多田へ、ジャンルの外へ外へと向かうのだろう。
今回のアルバムには収録されていないが、『お嫁においで』『FREEZE!!!』を聴いて僕はPUNPEEのすごさを何度も再確信し(いや遅えよ、というツッコミは受け付けない。なぜなら僕はにわかだからだ。)、その勢いでライブのチケットも取ってしまったくらいだ。行ってきました梅田クアトロ。
— 潮見惣右介 (@shiomiLP) 2017年10月12日
僕はライブにあまり行くタイプの人間ではないのだけど、観ておくべきライブというのは確かに存在していて、ここぞという時は割とその嗅覚が働くのだ。今回のPUNPEE然り、小沢健二の魔法的然り。
しかしまぁお気づきかもしれないが、最近の自分の悪い癖として、ブログの本題に入るまでの前置きが長くなりがちである。それは重々承知している。だが誤解しないでほしい。それは水増しではない、むしろ対象物に対する熱意の表れである。
section:2
ヒップホップを聴き始めたきっかけは確か去年の夏、KAI-YOUさんのオフィスにお邪魔したときだった。KAI-YOU・よしださん(現BuzzFeed)が「日本語ラップのブームがきてるんですよ」と教えてくださった。
まったく知らない世界の話として、マツコ・デラックスのような気分で興味深く聴いてきたのだけど、そこでR指定というラッパーが自分と同郷であることを知った。そこから彼を糸口に色々聴き始めたわけだけど、PUNPEEについては宇多田ヒカルのフックアップがきっかけだった。30代はほどほどである。
なんとなく別物として認識していたR指定のラップとPUNPEEのラップが、(例えばPUNPEEがUMB東京予選の優勝経験があることや、R指定が出演するフリースタイルダンジョンでPUNPEEのビートが使用されていたことなどに気付き始め、)自分の中で合流したことで、一気に過熱したのだった。
YouTubeやiTunes、Spotifyなどで聴き漁り、まだまだ視野は狭いけど、それなりにヒップホップを楽しめるようになってきたところで、PUNPEEの告知が流れる。
古参のヘッズたちにとっては待ちに待った、にわかな僕にとっては「ええタイミング」で、PUNPEEが1stアルバムをリリースする運びとなった。
最初ジャケット見たとき正直ダサいなと思っちゃったんだけど、実物を手に取るとワクワク感があってめっちゃいい。 pic.twitter.com/PdCOm00HVX
— 潮見惣右介 (@shiomiLP) 2017年10月3日
section:3
アルバムのオープニングは2057年から始まる。40年後の年老いたPUNPEEが、若かりし頃の自分自身を振り返る。
過去の世界へ潜っていくように逆算して覗き見る2017年は、いつかこの瞬間も過去となり、思い出となることを予感させる。「あの頃」として眺める今現在。PUNPEEの「俯瞰性」が、アルバムの構造に現れている。
ちなみにライブのオープニングでも同様の老いたPUNPEEのセリフが流れるのだが、若干言葉が違っていた。「物好きな奴らに会いたくなったんじゃ」みたいなことを言っていた。また、中盤で流れる『Interval』でも、大阪公演では飛田新地について喋っていた。たぶん、公演都市によって毎回全部違う。
session:4
記事の冒頭にも書いたように、自分自身を一般人と名乗り、「自分でなくても他にちゃんとしたやつがいるじゃん」と言って二度寝してしまうPUNPEEは、そのあとの楽曲の中でも自分が特別であることを否定する。
この名前やっぱ気に入ってる
君はおれで 俺はきみなんだ ほらわかったら
捨てるんだ こんなCD!!『P.U.N.P(communication)』 - PUNPEE
で、あるが、エンドロールとしてアルバムの最後に流れる『Hero』ではこうも言う。
僕は君のHero よく無責任にそういうけれど
僕はいつだって普通のエキストラみたいな存在で
だけど君は言うよ でもヒロインがそういうならば
つまり僕はHero 僕は君のHero
『Hero』 - PUNPEE
ヒロインがそういうならば、一般人のあなたもHeroだと言う。
エキストラのような普通の一般人であること。そしてヒーローであること。一見矛盾していそうなそのふたつは、両立する。誰もが一般人であり、ヒーローである。
あなたが花なら 沢山のそれらと
変わりないのかも知れない
そこから一つを 選んだ
僕だけに 歌える唄がある
あなただけに 聴こえる唄がある
『花の名』 - BUMP OF CHICKEN
冒頭で紹介した「青春ゾンビ」で上手に解説されているが、アルバムコンセプトの芯はそこにある。 それを歌うだけでなく、自分自身で体現していくだけの俯瞰性を持っているのが、PUNPEEというクリエイターだ。
session:5
ライブではアルバム以外の楽曲もいくつかやってくれた。PUNPEEはライブ中、何度も「適当にからだ揺らして〜」「知ってる人は一緒に歌ってくれ」と言う。適当に、という緩さ。知らない人もいる、という前提。
ドメスティックな文脈に頼らず*1に、ヒップホップシーンを詳しく知らない人間にも間口が大きく開けていて、楽曲はその緩さに耐えうるだけの強度のあるPOPさを持ち合わせている。
時折客を煽りながらも、心地よい緩さがあり、とても気持ちのよい空間だった。
アルバムにも参加しているRAU DEFが『Bitch Planet』の途中で登場し、そのあと『FREEZE!!!』を歌ってくれた。
たとえZeebraとのビーフの件を知らなくても、一般人にしっかり届くだけの強度を持った楽曲だと思う。
そうそう、ライブで『お嫁においで2015』もやってくれたんだ。
宇多田ヒカルのうた、水曜日のダウンタウン、ファンタCM、レッドブルCMーーPUNPEEのクリエイションを並べると、どれもセンスがいい。PUNPEEのセレクトがセンスいいのか、PUNPEEをセレクトするクライアントのセンスがいいのか、それともPUNPEEが手掛けるとどれもセンスよく見えるのか。
いずれにせよ、彼がこれからどのような音楽を見せ、それがどのような形で社会に流通/浸透していくのか。大事なのはこれからであるし、おもしろいのもこれからである。
どうしても10代の頃に出会ったもののほうが影響力が強い中で、20代後半になっても新しいジャンルに出会って衝撃を受けられたことがとても嬉しい。
<了>
*1:ドメスティックな文脈がないわけではない。むしろ多いほうだろう。だがPUNPEEはそれに頼りっきりにならないのだ。